瞼を半分くらい開いた時、わずかな光が僕の部屋に差し込んでいる。

辺りは漆黒の闇のはず…さっきまでは…確かに…。

視線を感じる…僕を見てる…でも…何かが変だ。

恐怖心が無い気がする。…何故だろう?…不安はある…確かに不安はある。

でも…恐くは無い。

聞き覚えのある声、その声が…僕を優しく包み込んでくれている。

君の視線を感じる。

僕は顔を上げる事が出来ないまま不安な気持ちに駆られている。

薄暗い部屋、孤独に身を預ける僕、その僕を眺める君…。静寂の時が流れる…。

張り詰めた空気を打ち破るべく、君が僕の方に向かって歩み寄ってくる。

僕の背筋を汗が流れ落ちる。不安と緊張で、胸が張り裂けそうになる。

…高鳴る鼓動、流れ落ちる汗、近づいてくる君、揺れ動く僕の心。

顔を上げる事が出来ない…顔を上げたい…。見たい…君を見たい…。

今は、僕の視界を遮るものなど無い。顔を上げれば君が見える。

僕は不安と緊張で意識が無くなりそうなのをこらえながら、

思い切って顔を上げた。

 

 

目が覚めると、僕の目の前で見知らぬ女性が椅子に腰を掛けながら、

僕に向かって微笑みかけていた。

僕は現状を理解出来ないまま、ベットの上に寝そべって考えていた。

…どうやら顔を上げた瞬間に、こらえきれずに意識が遠のいたらしい。

時計を見ると、丁度12時を廻った所だった。

でも何故か、僕の部屋には小さいオレンジ色の灯りしか燈っていない。

僕が目隠しを外した事に対して、「光を与えても良い」と考えるものだと

思ったし、実際僕の中では「そういう願望」もあった。

薄暗いままの部屋、雨戸も閉じられたままで、僕の部屋の扉も閉じてある。

(…ここに居る女性の配慮か。)

確かに、長い間視界を遮っていた僕の目に日の光を浴びせる事は、

視力をも失わせてしまう事になりかねない。

事実、この小さい光を見るだけでも、僕にはとても明るく感じるのだから。

結構色々な事を考えていた…時計の長針は6の所を指している…。

その間、ここに居る女性は一言も発する事無く、僕に微笑みかけ続けていた。

その視線は、とても柔らかく…とても優しく僕を包み込んでいる…。

僕は勇気を振り絞って、その女性と視線を合わせてみた。

優しい表情…憂いを持った瞳…高鳴る鼓動…体中の筋肉が緊張し始める…。

僕はその瞬間…この女性に恋をしていた事に気付いた…。

 

 

口数こそ少ないものの、それなりに会話を繰り返した。

途切れ途切れの会話ながらも、僕の心は弾んでいた。

夕暮れ頃、彼女の提案で雨戸を少し開けてみることになった。

僕は彼女を信頼する事を決心した為、彼女の発言や行動を受け入れている。

(彼女に全てを委ねよう…僕が変わる為に。)

僕の目は、ある程度の光なら耐えうるようになっていた。

暫く間、小さくもそれなりに明るいオレンジ色の灯りを見ていたせいだろう。

薄明かりの部屋の中、彼女の帰る時間が刻々と近づいてくる…。

「明日は一緒に外を歩いてみようか。」

彼女はそう言い残し、僕の部屋を去って行った。

 

 

あくる日の朝…少し寝不足気味の目をこすりながら雨戸を開けてみた。

朝の光が部屋中に射しこみ、爽やかな風が吹き込んでくる。

漆黒の闇に包まれていた僕の部屋は、光の世界へと変貌を遂げた。

全ては彼女の望むままに…そうする事で僕が変わってきている。

光を浴びた僕の目も、思っていたほどの苦労も無く正常に戻った。

彼女が来る時間までまだ少しある為、僕はベットに横になった。

今日の外出が楽しみで、昨晩はなかなか寝付けなかった事と、

日光を体中に浴びている為に、気持ち良くなってきた事が重なって、

僕は知らぬ間に夢の世界へといざなわれていた…。

 

 

辺りは深い闇、僕はその中で何の抵抗もせずに流れに身を任せていた。

上を見上げると、わずかな光が見える。ここは…?

…水?…海?…そうか、海の底か。

何故僕はこんなところに居るのだろう?

今日はアノ人と散歩に出かける日なんだ、早く家に戻らないと…。

そんな事を考えながら、僕は必死に上に向かってもがきだした。

段々と光が強くなり、あと少しで水面に出れそうな時に、強い衝撃を受けた。

…落ちた。…ベットから。

僕は現状を理解できないまま、辺りを見回してみる。

彼女が僕を見て笑っていた…。

(夢か…)。現状を理解したと同時に、恥かしさがこみ上げてきた。

僕は顔を真っ赤に染めながらも、彼女と挨拶を交わす。

彼女は笑いをこらえながら、僕と挨拶を交わす。

他愛も無い会話を数十分程度交わした後、予定通り僕は彼女と外へと向かう。

ただ、予定と異なっていたのは、彼女が僕の手を引っ張って行った事だった。

想像もしていなかった、彼女との直接的なふれあい…。

家の外に出る前から、僕の胸は張り裂けそうになっていた。

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