誰一人として僕を分かってくれない。誰一人として僕を認めてくれない。
僕は…僕は…、何の為に生きてるのだろう…。
今の僕は何なのだろう?昔の僕は何なのだろう?
全ての意見が拒否されて、全ての行動を拒否されて、僕の存在を否定される…。
全ての人を憎み、全ての人を妬み、全ての人に嫌われて、…僕は心を閉ざした…。
誰もいない世界。誰にも否定されない世界。…僕の中にある世界。
この漆黒の闇に包まれて、たった一人…たった一人…
目を見開いても何も見えない。耳を澄ましても何も聞こえない。
僕だけしかいない世界…。ここが唯一の僕の居場所。
この闇に包まれている時、僕の心は開放される。
この闇だけが、僕を受け入れてくれる。
僕は…このままでいい。…このままがいい。
かなりの年月が経ち、その間僕の心に土足で踏み込もうとした人が何人も来た。
…心の病を治す?…僕を変える?…僕が変わる?…あなたは誰?
僕の世界には、誰も踏み込ませない。…絶対に誰も。
僕は僕の世界を守る為に、全てを拒否し続けた。
僕の心は闇に染まり、光を与えようとする者全てを拒絶した。
…そう。…君に出会うまでは。
全ての者への接触を避けた僕は、自分の視界さえも遮っていた。
僕は…何も見えない…何も見たくない。
今日もまた一人、心の病を治すというカウンセリングの人が来た。
「…どうしたの?」…その透き通った声が、僕の心へ問い掛ける。
君は誰?…今まで土足で踏み込もうとしていた人達と同じ発言。
でも…何か違う…何かが違う。
声の軟らかさ…心に響く優しい音…。
君は誰?…見たい…君を見たい…。
僕の心の扉が、少しずつ…開き始めた。
ふと気が付くと、僕の心は光を欲していた。
君との時間を欲していた。
…君の声が僕の心の扉を開こうとしている。
その言葉が…その声が…僕に光を与えようとしてくれている。
…僕の心も君の声に応え始めてる。
でも…。
――――恐 怖 心――――
僕自身が僕の心の扉を閉ざそうとしている…。
…過去の僕が、全てを拒んでいる。そう…君さえも…。
自分の中での戦い。過去と現在の戦い。
過去の僕は、想像よりも遥かに強大な力で僕の心を締め付ける。
君の存在が、今の僕の心を後押しする。
恐怖に立ち向かう勇気を与えてくれる。
でも…まだ足りない…僕が僕自身の恐怖に打ち勝つ為には、
まだ何かが足りない…僕の心が強くなる為の何かが…。
今の思いでは、心の扉は開かない…。
過去を過去とする事が…出来ない。
ある朝、光を欲する僕の心が僕の体を動かした。
遮られた視界、締め切られた部屋、孤独な感情…。
それらの状態に微妙な不満と不安が生じ始めていた。
…雨戸をほんの少しだけ…開けてみる。
懐かしい風の匂い…日光の温もり…小鳥のさえずり…。
視界を遮っていても分かる、光の世界。
様々な記憶が僕の脳裏を駆け巡る。
僕が受け入れられなかった世界。僕が受け入れなかった世界。
だけど…自然だけは、いつも僕を温かく…そして柔らかく包んでくれていた。
窓の隙間から温かい日の光と、爽やかな風が吹き込んでくる。
それと同時に僕の部屋の辛気臭い空気が吹き飛ばされていく。
小鳥たちの歌声を聞きながら、自然の懐に入り込もうとしていた…。
その時、小鳥たちの歌声の合間から、道行く人の声が聞こえてきた。
…ふと気が付くと、雨戸は閉められ…僕は僕の世界に戻ってきていた。
僕は漆黒とも思える部屋の中、一人で考え込んでいた…。
誰かの声が聞こえた瞬間の僕の行動。
今の自分の記憶の中に「その行動」が無いのだ…。
無意識の内に全ての人間を嫌っている。…違う…恐れている。
僕の存在を否定される事を恐れている。
…結局僕一人では何も解決出来ないのかもしれない。
この漆黒の闇の中でしか、自分の視界を開放する事しか出来ない。
光の世界を見る勇気…誰かの声に耳を傾ける勇気…傷つく事を恐れない勇気…。
…自分一人では何も出来ない。…何もやろうとしてない。
傷つく事を恐れ、不安に恐怖し、孤独を好んでいるフリをしている。
僕の弱い心では、一人で何かをやろうとする事が出来ない…。僕は…僕は…
「その為に私が居るんだけど?」
僕はハッとして、うつむきながら瞼をそっと開いた。