何気ない日常。いつもと変わらぬ散歩道。
少し前まで桜が満開だったこの道も、花が木から離れ空中を舞っている。
道の両脇に立ち並び、どこまでも続く桜の木。
足元に桜の花を感じながら何も考えずに歩いていた。
柔らかなじゅうたんの上を歩いていたかの様な感触が不意に昨日までの感触に変わる。
下を見てるとアスファルト…今まで見てきた道だ。
何の疑問も感じずに顔を上げる。
目に映る絵が全てピンク色が掛かった感じに変わった。
辺りを見渡すと、その一帯だけ時間が止まった様に桜が満開のまま立っている。
今まで見慣れていた景色でも、そこだけが周りと違っていると
何故かこのまま立ち去るのは勿体無く思え、少し近くのベンチで木を眺めながら休む事にした。
30分程度経っただろうか…。
休憩を終え立ち上がろうとした時、
「あの…すみません」…と突然後ろから若そうな女性の声。
少し驚いたが平静を装い…「はい?」…と返事をする。
女性「一つ尋ねたいのですが、この辺りで杖みたいな変な形の棒を見かけませんでしたか?」
自分「棒?…ですか?」
女性「えぇ…さっきから探してるのですけど、全然見つからなくて…」
自分「いえ、見てませんけど、この辺りで落としたのは間違いないんですか?」
(ん?さっきから…って、今まで誰も通らなかったような…。)
女性「そうですか…実は妹のイタズラで杖を隠されてしまって…
場所は、この辺で間違いないです。この花達が教…いえ…。」
自分「…?…なんでしたら一緒に探しましょうか?時間は余ってるので。」
女性「すみません、助かります。とても大事な物で、なるべく早く見つけないといけないので。」
自分「では探しましょうか。この辺だけと分かってるなら、そんなに大変でも無いでしょうから。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−10分経過−−−−−−−−−−−−−−−−−−
自分「無いですねぇ…。」
女性「えぇ…見つかりませんね…。
すみません、あまり時間取っちゃうのも悪いので、後は私1人で探してみますね。」
自分「あ、いえ、乗りかかった船ですから全然構いませんよ。」
ずっと下を向いて探してた為か段々と腰に疲れが溜まってきた。
自分「んーーーーー。」
と背伸びをして腰の疲れを癒す。
自分「んーーーーー…ん?」
女性「ん?」
自分「あれはー…あれですか?」
微妙に変な形をした木の枝が桜が満開の木の枝に引っかかっていた。
女性「ええと、どれですか?」
自分「あれです、あそこの木の枝に…。」
女性「あ、あぁ!あれですあれです。」
自分「でもあんなとこにあったんじゃ、簡単には取れそうも無いですねぇ。」
女性「あ、いえ、大丈夫です。本当にどうもありがとうございました。」
自分「え、あ、いぇ、別に構いませんけど、本当に大丈夫な…」
言葉をさえぎるように女性は深々と頭を下げてまた一言。
女性「ありがとうございました。」
と言い終わると、女性の足が地面から離れて杖の方向へ向かって浮き上がる。
自分「へ?」
目の前の出来事を理解できずに、思わず間の抜けた声を出してしまった。
木の上で上を手にした女性は、安心したかのようなため息を一つ。
そして、独り言にしては大きな声で喋りだした。
女性「もう!あなたが変な事をするから人間に姿を見られちゃったじゃない!」
?「ごめんごめん。こんな事になるとは思わなかったからさぁ。」
少し笑い気味な感じの声が、どこからともなく聞こえてきた。
その状況を理解できないまま呆然と女性の方を見ていると、
その女性の隣の枝辺りに、いつの間にかもう1人の女性の姿があった。
自分「(えと…あの人が妹…なのかな…。)」
女性「お願いだからもうこんな事しないでよ。」
妹?「分かった分かった。それじゃ、ここで交代だねー。」
女性「はぁ…やっと休めるわ。それじゃ、また来年だね。
女性と妹らしき人物はお互いの手をパチンと合わせた。
女性「あ、そうだ。ここの花達の時間を戻さなきゃ。」
と言うと同時に女性は見つけた杖らしきものを一振り。
この辺りの満開だった桜の木が、周りの木と同じように緑の葉が残り花びらが舞い始めた。
女性「これで良し、と。それじゃまた来年。」
妹?「うん。後は任せて。」
その会話が終わると二人の体が空に舞い、フッと消え去った。
自分「あ…。」
結局終始理解出来ずにいた出来事の中で、一つだけ理解できた事があった。
自分「…夏か…。」